サバイバル-精子たちの壮絶なサバイバルレースというドラマ

サバイバル 精子たちの壮絶なサバイバルレースというドラマ

「僕はダメな人間です。先生、どうしたらよいですか?」

「きみはね、二億から三億のラィパルとの競争を勝ち抜いてこの世に生まれてきた存在なんだよ。だからもつと自信をもつていいんだよ」

これは〈子ども悩み相談室〉に寄せられた相談に、先生がその子を励ますために使ったセリフだ。オトナからすればさほど説得力もなく、陳腐にさえ問こえるかもしれないが、受精のときに精子がくぐる本当の苦難の数々を知れば、このセリフがあらためて胸にひびくはずだ。その苦雖とはこうだ。

膣内に射稍された精子がまず最初に出会う苦しみは、そこが生きていくのにとてもつらい環境だということだ。通常、膣内は酸性に保たれており、雑菌や病原菌の繁殖を防いでいるものの、酸性環境は精子の運動能力をいちじるしく想ってしま、分らだ。といつても、そこはよくしたもので、排卵日が近づいたときにかぎつて子宮頸管から 弱アルヵリ性粘液が分泌され、それにより腔内が中性に傾く。これは女性の側が積極的に受精のチャンスを精子に与えている証拠で、そのおかげで運よく排卵日前に射精された精子だけは、腔の奥にある頸管へ通るることが許されるのだ。

とはいえ、射精の時期に忠まれた稍子のすべてが頸管に侵入できるわけではない。頸管が分泌する粘液はゆつくりとした速度で流れ落ちてくるので、精子には流れに逆らって泳げるだけの力が要求される。この流れに筒けたものは膣内に押し戻され、やがて一〜二時冏後にはだらりと滴り落ちることになる。その数は射梢された精子の半分にも達する。

さて、やつとのことで頸赞を通り抜けた精子は子宮に入り、ここいらで|息つきたいところなのだが、そうは問厣がおろさない。このあとすぐに最大の試練がやつてくるのだ。それは、色血球耶闭の来迎で、こやつらは生きている精子であろうと死んでいる精子であろうと、見境なく食べ尽くすのだ。白血球はふだんは全身をパトロールし、体に侵入してきた細菌などの興物を捕らえて殺す役目をしている。そんな彼らにとつては精子といえども興物であることにはちがいなく、したがつてそれを攻擊をすることで自分の任務を忠実に來たしているだけなのだ。®子がいくら「赤ちゃんをつくるために来たんだ」と叫ぼうが、白血球は許してはくれないのである。

白血球の攻擊から命からがら逃げおおせたとき、いつしょに射精された仲間の精子の数は数百にまで激減している。しかし、そのうえさらに卵管の中を通り、受精ボィントである卵管膨大部まで行かなければ受稍はできない。おまけに、女生は卵巣を二つもつているので、卵巣へ続く卵管も二つあり、排卵される卵管ではない道へとまちがえる精子も出てくる。

こうやつて、艱難辛苦のサバィバルレースを勝ち抜いてきた精子は、最終的には数十になり、卵管膨大部で卵子が排卵されてやつてくるのを待つのだ。もちろん、精子 の寿命は三、四日なので、この間に排卵が行なわれなければオダブツとなつてしまう。そして、そこに卵子がやつてきたとき、いよいよ受精ドラマのクラィマックスが訪れ る。

卵子は卵球細胞と透明体におおわれ、堅く守られている。この防御壁を破るのはかなりたいへんな作業で、ここでは精子たちは一致協力して事に当たる。精子の頭部には先体胞という部分があり、そこに卵球細胞や透明体を溶かす酵素が含まれている。精子はその酵素を卵子に放出し、自らは死にいたりながらも囲みを突破する。

そしてとうとう、たつた一個の稍子だけが受稍のゴールに駆け込むのだ。一個が受精した瞬間、卵子は電気的な変化を起こし、ほかのすべての精子を締め出してしまう。こうして、数々の難閲を乘り越えて誕生した受精卵の成長した姿が、今この本を読んでい るあなたというわけなのだ。 ■

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